縄文時代に戻ろうという幻想

最近、縄文時代の生活様式に着目し、狩猟採取に戻った方が健康にいい…みたいな事を言う人もいる。
本当にそうだろうか。

縄文時代の人骨から平均寿命を割り出したデータがある。
15歳以上の人骨を対象に縄文人の平均寿命を調査したところ、男性31.1歳、女性31.3歳だそうだ。
医療も発達しておらず、食糧も限られているので、その土地が養える人口も限られていた。
その後、縄文の後期に稲作文化が伝来し、本格的に農耕を始めた日本では、富(食糧)が蓄積し、貧富の差が生まれ、飛躍的に発展したのは説明するまでもない。

現代、エネルギーや食糧がこのまま持続的に賄えるのか?
という問題に、「縄文時代に戻ろう」という発想自体は分かる。その原点回帰的なスローガンと自分自身の日常生活の乖離を埋められるのかどうか。
人間は、一度知ってしまったことを完全に忘れることはなかなか出来ない。文明的な生活を捨て、自然に身を委ねられるのか。
到底出来ないだろう。

人間の限りない欲望を全て満足させることは出来ない。足るを知るという精神性を備えつつ、現代社会の問題を新しい手法で解決していくしかない。
ただ、どの角度から考えても、私の頭では、原子力エネルギー、人工知能、遺伝子操作技術、宇宙開発・・・どれをとっても本来私達に必要な知識とは思えない。
人は自然によって生かされているのだから。

 

※出展:小林和正 1967年 「出土人骨による日本縄文時代人の寿命の推定」 『人口問題研究102』国立社会保障・人口問題研究所