第4回「穀雨に思う」(2014年4月放送)

 おとといは、二十四節季でいう「穀雨」。穀雨とは、「雨が降って百穀を潤す」という意味からきている言葉で、この時期はやわらかい春雨が降る日が多くなります。田んぼや畑を潤し、木々の芽吹きのお手伝いをします。里山では寂しかった色が緑色に変わり始め、命が芽吹くような素敵な時期です。木々の中に埋もれ深呼吸するととても清々しい気持ちになれます。

 とはいえ今の時期、新潟の農家にとっては、田んぼを耕したり、稲の苗を育てる大切な時期なので、本音を言えば、雨は降られると困るのですが、穀物が成長するためには必要不可欠な雨です。天の恵みに感謝する気持ちの余裕を持ちたいと思います。

 昔から米作りには「苗半作」という言葉があります。これは、苗の出来がその年の作柄の半分を決める、という所から来ている言葉です。今まさに我が家のビニールハウスには沢山の苗が育っている途中です。種まきから田植えまで約1カ月。この短かい間に稲の出来の大体が決まってしまうのですから、日が暮れるまで全く気が抜けません。日が暮れても強風が吹いたり、気温が下がったりすると気になって眠れません。当たり前ですが、稲は自分の気持ちを言葉にしてはくれないので、根の様子や葉の色・形などを見て、稲がして欲しいことを想像しています。稲作りの達人は、よく「稲と話ができる」といいます。私も精進して目に見える所だけでなく、目に見えないものから何かを感じられるような農家になりたいと思っています。

 かつては、食べる人と育てる人との距離はもう少し近かったように思います。多くの人が作物を育てることに関わり、季節の移り変わりと歩調を合わせながら暮らしていました。その土地の風土が育む特徴的な野菜や果物に加え、野山に生えている野草も美味しく食べていました。この時期我が家では、畑に生えているヨモギを練り込んで「草餅」をつきます。ヨモギは「ハーブの女王」と言われるほど効能が多彩で、飲んで良し、付けて良し、浸かって良し、嗅いで良し、燃やして良し、の五拍子揃った野草です。

 しかも、この時期のヨモギの風味が一番素晴らしく、強いエネルギーも感じることができます。「ヨモギの芽ぶきのエネルギー」と「もち米」と「あんこ」のコラボレーション。是非皆さんも自然のエネルギーを感じて食べてみてください。

 やわらかな穀雨に潤された田んぼに、もうすぐ稲の苗が植えられます。今年はほんの少しだけ田んぼとの距離を縮めてみませんか。きっと何か素敵な発見があると思います。