第14回「奨学米プロジェクト」(2014年7月放送)

 大学生を金銭面からサポートする奨学金制度をヒントに、お金ではない形で学生を応援できないか、という発想で生まれた制度があります。それが奨学米プロジェクト。学生はコメオヤと言われる農家からお米を受け取り、そのかわりに学生は、農業のお手伝いや地域のイベントに参加することで還元する。そんな取り組みが今年で4年目を迎えました。学生たちは心のふるさとを得て、コメオヤは、貴重な労働力だけではなく、農業という仕事を外から見た視点や農業という仕事に対する誇らしい気持ちを頂きます。

 私もコメオヤの一人なのですが、最初は、「参加すればお米がもらえるから」という「お米欲しさ」の学生ばかりが来るのかと思っていました。しかし、実際に会ってみると学生たちは、好奇心のかたまりで、純粋に農業という現場を体験したがっていますし、現代の食に関する問題意識も非常に高い学生が多いように思います。
実際に先日、こんなことがありました。

 東京から1泊2日で農作業体験に来たのに、地元の里山で開催した屋外イベントスタッフになってもらい、滞在期間中の全ての時間を費やしてもらったことがあります。1日目は夜10時に終了し、家に帰ると、私は寝たいのですが、「一緒に農業の話がしたい」というのです。夜中まで飲みながら話をしていると、将来のこと、社会のこと、そして農業についてなどよく考えていることに驚かされます。

 そこで、彼らはどこかで聞きかじった知識で、「これから農業は6次産業化ですよね」などと言ってきます。「そうだね」と言いたくない私は、「いや、6次産業化はもう古い、これからは10次産業化だよ…」と答えます。「ええっ、10次産業化!何の産業が加わるのですか?」となります。すかさず私が「6次産業化プラス、社会の問題に取り組むNPO法人にも参画して、合わせて10次産業さ」と答えます。こんな感じで農業問題や食についての深い話をしていくうちに、夜が更けて、次の日、彼らが本来やりたかった早朝の農作業ができなかったのは、言うまでもありません。

 奨学米プロジェクトを経験した学生が社会人となり、様々な業種に就職していきます。日本の未来を創っていく若者と農家が繋がり、相互理解の信頼関係を築くことで、農業と商工業界、農村と都市の懸け橋になってくれることを信じています。

 こんな取り組みが、日本中に広まって、農業と食卓との距離が近くなってくれたらいいなと思っています。そのために今、我々大人が何をなすべきか。答えは皆さんの目の前にあります。